脊柱管狭窄症を克服した70歳のタクシー運転手Mさん
- 腰部の症状
- 2019.12.10
先日、10カ月間通院した69歳男性が当院を卒業されました。
5年前から腰痛を患い、3件かかった整形外科ではいずれも脊柱管狭窄症の診断。500M歩くと痛みや下肢痺れが襲う、脊柱管狭窄症特有の強い症状でした。リハビリに通うも芳しくなく、手術はいい噂を聞いていないので意思はなく、いったいどうしたものかと悩んでいたそうです。
この方は千葉県のタクシー運転手さんなのですが、悩んでいた矢先にたまたまお客さんとして乗った方が当院の患者さんで、運転手さんの悩みを聞いて、たまたま持ち合わせていた当院の名刺を渡してあげたんだそうです。偶然に偶然が重なり、藁にもすがる思いで遠方から来院されました。
それから当院の治療、リハビリテーションが始まり、これで最後のチャレンジという思いで頑張って続けました。努力がとどいて徐々に症状が回復し、4カ月ぐらいで痺れが消失、500Mの歩行から1時間の歩行が可能になりました。当初1週間に1回の通院が、その頃には1カ月に1回となり、そして先日卒業されました。
70歳を目前とし、毎週遠方からの通院、そして通院しない6日間は毎日のリハビリを課せられたわけですから、なかなか大変だったと思います。しかし頑張ってやり遂げました。
Mさんには夢がありました。Mさんは70歳になったら海外で数年間暮らすのが夢だったそうです。しかし足腰の症状が強く、それは諦めざるをえないと考えていたのですが、身体が回復するにつれ、また希望がでてきたのでしょう。
お歳をとられたとしても、目標があると取り組み方も違いますし、回復のあり方も違います。遠方から頑張って通院をつづけられたのも、思い続けた目標があったから。やはり目標はどんな小さなものであれ、持ち続けることが大切とあらためて思いました。
そして、今月からペナン島にいって夢をかなえてくるそうです。悲壮感で溢れた初診時に比べ、卒業のこの日は冗談ばっかり話して終始ご機嫌でした。
人の夢の手伝いができる仕事。なんて素敵な仕事なんでしょう。開院から令和2年で17年目を迎えますが、毎日朝早くから遅くまで働き、決して楽な仕事とはいえない内容でも、こういうシーンに出会えるからこそ続けられるんだなと思いました。
ところで脊柱管狭窄症は、ちょうど腰椎のあたりで脊髄が脊柱の変形などで圧迫され、そこから下の腰部や下肢に劇的な症状を患い、現代医療でも難治性とされています。腰椎の変形は自己修復に難しく、手術しかないとされていますが、この手術の予後が良いかというと、あまりよい評価をうけていません。
脊柱管狭窄症手術予後のエビデンス
脊柱管狭窄症への減圧椎弓切除術に関する論文74件を厳密に検討した結果、優または良と評価できたのは平均64%だったが、論文によっては26%~100%もの開きがあり、研究デザインにも不備が多いためその有効性は証明できない。
脊柱管狭窄症と診断された腰下肢痛患者88名を対象に減圧椎弓切除術の成績を6年間追跡した結果、1年後の改善率は89%だったが6年後には57%に低下し17%は再手術を受けていたことから、これまで報告されていた成績より悪い。
脊柱管狭窄を伴う変性すべり症患者76名を対象に、器具固定群と骨移植固定群の術後成績を2年間追跡した比較試験によると、器具固定によって骨癒合率の向上は認められるものの、それが必ずしも臨床症状の改善に結びつかないことが判明。
脊柱管狭窄症への減圧術と理学療法、2年後の身体機能に差なし。
神経性間欠跛行のある腰部脊柱管狭窄症患者を対象としたランダム化試験で示唆、治療効果に性差もなし。
※出典は海外エビデンスサイトPubMed®に収録
しかし病院でこのような診断を経ても、当院のような代替医療機関で克服できたという例はたくさんあります。
確かに加齢等の理由により変形した腰椎が20代のころの新鮮な骨に生まれ変わることはないのですが、今回のように重篤な脊柱管狭窄症と診断された方が克服されるのを、当院だけでも多く経験してきました。
当院ではこの脊柱管狭窄症を「狭窄された部分だけの問題」とは捉えず、脊柱全体ユニットの問題として捉えています。物理学ではテンソルの概念というものがあり、簡単に言いますと、脊髄のような弾性繊維を縦に伸ばすと、横方向が縮まるというもの。逆に縦方向の牽引を緩めると横方向の面積が元に戻るという物理現象です。
もちろんすべてにおいてこの考え方が当てはまるわけではなく、また脊髄の弾力性も経年劣化によって失われている場合は、たとえ縦方向の牽引が緩められたとしても横方向の面積が速動して戻る訳ではありません。しかし、多くのケースでこのような現象が起きていると推測しています。
治療内容の一例をあげると、当院に設置してある「脊柱外科処置台」に正しく座ってもらい、脊柱全体にしなりを取り戻すように適度な圧を適量加え経過をみます。
また歩くと痺れがでて辛いのですが、動ける範囲で少しずつ動いてもらいます。
なぜなら腰椎の生理的前弯の消失等の影響で脊柱ユニットが縦に伸びていることが推測され、テンソルの概念から横方向への脊髄神経圧迫が起きていると考えるからです。
脊柱全体の撓み(余裕)を取り戻すためには、重力に抵抗した運動が欠かせません。脊柱管狭窄症はその症状の強さから、歩くのがとても辛いのですが、休み休みながらもリハビリの一環として少しずつ歩行距離を伸ばしてもらいます。このような考えに沿いながら治療を進めていきます。
今回Mさんのケースでは、この治療法に即して進めた結果、5年悩んだ狭窄症状は10カ月の療養期間で克服することができました。もちろん当方も治療は頑張りましたが、Mさんの献身的な姿勢なくしては成し遂げることはできません。
Mさんは海外生活に慣れたころ、絵葉書を送ってくれるそうです。
それを楽しみにしながら、毎日の診察を頑張ることにします。
もしあなたや周りの方がMさんのような境遇でお困りである場合は、当院がお力になれるかもしれません。お気兼ねなくご相談ください。